熱可塑性エラストマー 特徴とゴムとの違い

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熱可塑性エラストマーの特徴とゴムとの違い

熱可塑性エラストマー 特徴とゴムとの違いについてまとめました。

エラストマーとは

エラストマーとは、弾力のある(elastic)な 高分子(polymer)という意味で呼ばれています。

つまりエラストマーとは、弾性力があり、高分子で構成された素材ということになります。

世の中で「ゴム」と呼ばれる素材が、エラストマーに該当します。

エラストマーには、以下2つの種類あります。

  1. 熱硬化性エラストマー
  2. 熱可塑性エラストマー
エラストマーの違い_熱可塑性と熱硬化性
エラストマーの違い_熱可塑性と熱硬化性

熱硬化性エラストマーの特徴

熱硬化性エラストマーの構造

ポリマー分子鎖が加硫反応することで、共有結合の架橋点を作ります。

加硫反応により、強度と弾性力が低いゴム素材が、強度と弾性力を持ったエラストマーになります。

熱硬化性エラストマー
熱硬化性エラストマー

熱硬化性エラストマーの特徴

熱硬化性エラストマーは、熱によって軟化しないエラストマーのことを指します。

そのため、熱硬化性エラストマーを加熱し続けると、ポリマーが劣化し、最終的にはポリマーが切断されます。

その結果、熱硬化エラストマーは低分子量化し、外観性が悪化すると共に、材料物性が著しく悪化します。

熱硬化性エラストマーは、熱可塑性エラストマーのように、固化状態を加熱することで溶解はしません。

一度硬化させてしまうと、溶融状態に戻らず可逆的な反応は致しません。

熱可塑性エラストマー性質
熱可塑性エラストマー性質

熱硬化性エラストマーの用途

代表的な熱硬化性エラストマーが使われる製品は以下です。

  • 自動車のタイヤ
  • 輪ゴム
  • パッキンゴム

熱可塑性エラストマーの特徴

熱可塑性エラストマーの構造

ポリマーが固化することで、凝集点を作ります。

ポリマーを固化させ、ポリマーの凝集点を作ることで、強度と弾性力が低いゴム素材が、強度と弾性力を持ったエラストマーになります。

熱可塑性エラストマー
熱可塑性エラストマー

熱可塑性エラストマーの特徴

熱可塑性エラストマーは、ポリマー分子鎖が加熱・冷却で、可逆的に変化するエラストマーを指します。

熱可塑性エラストマーを加熱すると、ポリマーの凝集点が溶け出して、半液体状態になります。

半液体状態になったポリマーを冷却することで、ポリマーが凝集点を形成し、固化します。

このように熱可塑性エラストマーは、加熱と冷却を繰り返しても半永久的に使い続けることができます。

※加熱・冷却を繰り返すことで、分子鎖の劣化が生じ物性は低下します。

熱可塑性エラストマー性質1
熱可塑性エラストマー性質1

熱可塑性エラストマーのポリマー変化

熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとソフトセグメントで構成されています。

熱可塑性エラストマーを冷却し固化させることによって、それぞれのセグメント同士がミクロ層分離して集まり合います。

その結果、ソフトセグメントは男性力を発現する部分・ハードセグメントは強度を発しする部分の役割を持ちます。

固化状態の熱可塑性エラストマーは、加熱することで、ミクロ層分離状態が解消されて流動し、半液状に状態変化します。

熱可塑性エラストマーの用途

代表的な熱可塑性エラストマーが使われる製品は以下です。

  • 靴底のソール
  • ゲル系クッション
  • 自動車・家電向け小型ゴム部品

熱可塑性エラストマーがゴムの性質を示すメカニズム

熱可塑性エラストマーは、ゴム成分を持たず、共有結合の架橋をしていないのに なぜゴム(熱硬化性エラストマー)の性質をもつのか不思議です。

具体的には、以下の謎があります。

  • ハードセグメントが凝集する理由
  • ハードセグメントが固まって動かない理由

上記2つの謎は、熱可塑性エラストマーが以下2つの性質を有するためです。

  1. ミクロ層分離
  2. 運動性能差

ミクロ層分離

ハードセグメント同士が凝集する理由は、ミクロ層分離という性質から説明ができます。

化学物質は、以下の特性があります。

  • 相性の良いもの同士は混ざり合う
  • 相性のよくないもの同士は混ざり合わず分離する

水と油は相性が良くありません。

そのため、水と油を混ぜ合わせたときに、水と油が分離して2層に分離します。

熱可塑性エラストマー_ミクロ相分離
熱可塑性エラストマー_ミクロ相分離

こういったケースは、水と油だけではなく、高分子材料によっても生じます。

熱可塑性エラストマーは、以下のように、ハードセグメントとソフトセグメントが、分子鎖でつながっております。

熱可塑性エラストマー_分子構造
熱可塑性エラストマー_分子構造

そのため、水と油のように完全に2層で分離することができません。

熱可塑性エラストマーは以下のような構造を取ります。

熱可塑性エラストマー_構造イメージ
熱可塑性エラストマー_構造イメージ

上記のように、ソフトセグメントはソフトセグメント同士、ハードセグメントはハードセグメント同士が集まり合おうという動きが生じます。

熱可塑性エラストマーは、ソフトセグメントとハードセグメントが連結しているため、水と油のように完全2層に分離しない理由はこのためです。

ソフトセグメントとハードセグメントが、目に見えないほどの微小サイズで凝集するため、「ミクロ層分離」と呼ばれております。

製品状態の固化した熱可塑性エラストマーは、熱をかけて溶融させると、相溶性が増します。

その結果、ハードセグメントの凝集が解けて、ハードセグメントとソフトセグメントが混ざり合います。

運動性能差

熱可塑性エラストマーの性質は、ソフトセグメントとハードセグメントの運動性能の差によって生じます。

ソフトセグメントとハードセグメントでは、異なる物質です。

そのため、ソフトセグメントとハードセグメントでは、運動性能が異なります。

運動性能とは、高分子の温度変化による状態変化のことを指します。

高分子に熱がかかると以下のように変化いたします。

熱可塑性エラストマー_温度による状態変化
熱可塑性エラストマー_温度による状態変化

温度が上がる(熱が加わる)ことで、分子鎖が動かない固化状態から、分子鎖の一部が動く半固化状態、分子鎖の全てが動き出す液状態へ状態変化します。

熱可塑性エラストマーのSBS(スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体)の例で見ていきます。

SBSは、ソフトセグメントのブタジエンと、ハードセグメントのスチレンで構成されます。

熱可塑性エラストマー_SBSスチレンブタジエンスチレン共重合体
熱可塑性エラストマー_SBSスチレンブタジエンスチレン共重合体

SBSに熱が加えられると、以下のように変化いたします。

熱可塑性エラストマー_SBSスチレンブタジエンスチレン共重合体_温度による状態変化
熱可塑性エラストマー_SBSスチレンブタジエンスチレン共重合体_温度による状態変化

このように、室温では、ソフトセグメントのブタジエンがゴム状態で、ハードセグメントのスチレンがガラス状態であるため、

さらに、SBSは熱硬化性エラストマーのように網目構造を構成するため、室温で、形を維持しながらゴムのような弾性力を持つ材料ができるわけです。

最後に

今回は、熱可塑性エラストマー 特徴とゴムとの違いについてまとめました。

熱可塑性エラストマーは、樹脂材料と同じように射出成形で成形することができます。

一方で、熱硬化性ポリマーは、特性上加硫処理が必要であり、金型内でのプレス成形が必要です。

このため、熱可塑性エラストマーは、熱硬化性エラストマーよりも以下のメリットがあります。

  • サイクルタイムが短い
  • 3Dプリンターで利用できる

これらのメリットが大きいため、特に3Dプリンター用途で、熱可塑性エラストマーがさらに普及していくことが予想されます。

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