今回は、樹脂・ゴム材料の耐摩耗性向上メカニズム について書きたいと思います。
樹脂材料は、ギアなどの摺動部品、筐体などの人が触れる部品など、さまざまなところで耐摩耗性が重要です。
ゴム材料は、主に衝撃を吸収する防振用途や、接地する物質との摩擦力を利用するタイヤ用途に用いられます。
つまりゴム材料は、他物質と接して使われるため、他物質との擦れによるゴム材料の摩耗性は非常に重要な要素になります。
別記事で ゴム材料の摩耗モードのまとめ を書いております。
樹脂・ゴムの摩擦力
樹脂とゴムの摩擦力は、摩耗と大きく関係します。
摩擦力が大きい場合、材料の擦れて摩耗する量が多くなります。
一方で、摩擦力が小さくても、小さな力が繰り返しかかることで摩耗は生じます。
摩擦力の考え方について詳細は別の記事にまとめました。
耐摩耗性向上手法_摩擦力が大きい場合
耐摩耗性の考え方
耐摩耗性を高める方法は、物質間の摩擦力の大小で変わります。
物質間の摩擦力が大きい場合は、アブレシブ摩耗のケースであることが多いです。
アグレッシブ摩耗などの説明は別記事に書いております。
アブレシブ摩耗での摩耗(体積)量は以下の式で表すことができます。

上記の式から、摩耗体積量を小さくするために、以下の材料であるほど、磨耗しにくい材料と言えます。
- 摩擦係数を小さい材料
- 材料硬度(硬さ)が高い材料
- 引張強度が大きい材料
- 引張破断伸びが大きい材料
引張破断強度と引張破断伸びで表される面積は、S-Sカーブ(応力-ひずみ曲線)の面積に該当します。
この面積は、物質が破断に至るまでのエネルギー(破断エネルギー)を表し、この値が大きいほど、破断しにくいことになります。
ゴム材料
ゴム材料は、カーボンブラックやシリカを配合することで、材料硬度や強度を向上させます。
そのため、ゴム材料の耐摩耗性向上のため、カーボンブラックやシリカの添加量調整が行われます。
カーボンブラックに関しては別の記事にまとめております。
カーボンブラックと耐摩耗性の関係は、こちらに詳細をまとめております。
樹脂材料
樹脂材料の摩擦や摩耗は、樹脂材料が接する相手材の表面粗さに大きく依存します。
相手材の表面粗さが小さいと、樹脂材料と相手材の接触面積が大きくなり、比摩耗量、摩擦係数ともに大きくなります。
では相手材の表面粗さを大きくすることで、耐摩耗性を向上させられるかというと、一概にはそうは言えません。
相手材の表面粗さが大きい場合において、相手材の凸部での引掻き削れによりアブレシブ摩耗モードが発生し、耐摩耗性が悪化するケースがあります。
これらのイメージを図に表したものが以下になります。
磨耗体積量と2材料の接触面積には以下のような関係があり、磨耗体積量が最小になる極小エリアがあります。

材料の種類によって一概には言えませんが、経験則から以下が言えます。
- 最大高さ(Rz):1.0
- 算術平均粗さ(Ra):0.2
最大高さ(Rz):一番高い凸と一番低い凹の高低差
算術平均粗さ(Ra):凹凸の高低差の平均
ポリエチレン
ポリエチレンの場合は特殊で、上記一般的な樹脂の特性とは異なり、相手材の表面粗さが小さいと比摩耗量が小さくなりますが、摩擦係数は大きくなります。
ポリエチレンが介在する場合には注意が必要です。
摩擦熱の影響
ゴム・樹脂材料は、摩擦熱が発生すると、耐摩耗性が著しく悪化します。
荷重と摩耗(滑り)速度の積(PV値)が、ある閾値を超えると、比摩耗量が変化することが原因です。
PV値は、摩擦熱量の目安です。
*PV値:Pressure(荷重)X Viscosity(滑り速度)
比摩耗量が変化するPV値を限界PV値といいます。
この値を越える環境下で使用する場合は、耐摩耗性を保証することができません。
摺動用プラスチックのカタログには必ず限界PV値が記載されています。
耐摩耗性を高める方法_摩擦力が小さい場合
耐摩耗性の考え方
摩擦力が小さい場合、疲労摩耗や化学摩耗(酸化摩耗)が発生することが多くなります。
摩擦力が小さいと、前述のアブレシブ摩耗のように大きな変形は受けず、小さな変形を繰り返し与えられることになります。
疲労摩耗
疲労摩耗は、摩擦時に応力が集中した箇所に起こります。
頻繁に発生するケースとして以下があります。
- 樹脂材料に添加したフィラーの凝集
- ゴム材料の架橋密度のばらつき(場所によってのゴム硬度ばらつき)
- 樹脂・ゴムとフィラー間の相互作用が弱い場合
- 局所的に分子鎖の動きが束縛されている場合
- 微小ボイド
- 異物混入
上記箇所に応力が集中し、微小摩耗が発生し、進展してい摩耗が進行します。
そのため対策は、以下があります。
- フィラーや架橋剤の分散を良くする
- フィラーの表面処理をして樹脂・ゴムとの相互作用を高める
- 分子鎖の動きをスムーズにするために滑剤や可塑剤を入れる
- 成形条件を見直してボイドの発生を防ぐ
- 異物混入を防ぐ
ゴムの場合、ストラクチャーの小さいカーボンブラックを用いて分子鎖の束縛を少なくすることも有効です。
ゴムの場合はストラクチャーの小さいカーボンブラックを用いて分子鎖の束縛を少なくすることも有効です。
化学摩耗(酸化摩耗)
化学摩耗(酸化摩耗)は、摩耗時に発生する圧力と熱により、材料が酸化劣化することで発生します。
化学摩耗の対策は以下がとられます。
- 酸化防止剤を添加する
- 耐熱性に優れた酸化劣化しにくい樹脂・ゴムに切り替える
詳細なメカニズムは分かっておりませんが、擦れるという物理現象において酸素の影響を受けやすいものと受けにくいものというのがあります。
詳細なメカニズムは分かりませんが、擦れるという物理現象において酸素の影響を受けやすいものと受けにくいものというのがあります。
ブタジエンゴム(BR)は耐摩耗性に優れるゴムとして知られていますが、これは擦れるときに酸化劣化が進みにくいためです。
一方、天然ゴム(NR)はBRに比べると酸素の影響を受けて酸化劣化しやすく、摩耗が進みやすいです。
最後に
今回は、樹脂・ゴム材料の耐摩耗性向上メカニズム について書いてみました。
耐摩耗性は、摩擦力と密接に関係しておりますので、摩擦力について一度見ていただくと耐摩耗性の理解が深まると思います。
主に樹脂やゴム材料、材料リサイクルに関してわかりやすくまとめておりますので、皆さんのご参考になれば幸いです。
ゴムや樹脂材料でお困りなことがありましたら気軽にコメントいただければ、分かる範囲でご回答させていただきます。