今回は、樹脂の分子量分布と強度・樹脂劣化の関係 について書きたいと思います。
樹脂材料生成工程について
樹脂材料の分子量分布を理解する上で、樹脂の重合工程を詳しく知る必要があります。
樹脂の重合工程では、低分子のモノマーと触媒を反応させて、高分子のポリマーを作ります。
重合工程の反応槽は非常に大きいため、反応槽の中で反応が進むモノマーと、反応が進みにくいモノマーが存在します。
(焼き肉屋で、七輪の中央は火力が強くて肉がすぐにやけるが、七輪の端では火力が弱く肉が焼けにくい といったイメージです)
つまり重合工程において、反応が進み分子量の大きなポリマーと、反応が進まず分子量の小さなポリマーが存在してしまいます。
そのため、樹脂材料には分子量の分布がどうしてもできてしまいます。
樹脂の重合工程については別の記事にまとめております。
樹脂材料 分子量分布
樹脂材料は、長さの異なる分子鎖が集まって構成されます。
そして樹脂材料量産時の重合工程のポリマーの反応ムラにより、全ての樹脂材料において、以下のような分子量分布を持つようになります。

横軸は対数ですので、分子鎖が短い(グラフ左側)樹脂は、分子鎖の長い(グラフ右側)樹脂と比較して、材料内に非常に量が少ないことを意味しています。
分子量分布が存在する理由は、樹脂材料の重合工程にて均一に樹脂を反応させることが極めて難しいことが挙げられます。
樹脂の重合反応後は、選別を行い、超低分子量の樹脂と、超高分子量の樹脂は取り除くことができるものの、一定の分子量分布はどうしても発生してしまうのが現実です。
樹脂材料 劣化
樹脂材料は、熱や紫外線の影響で分子鎖が容易に切断され、長い高分子鎖が、複数の短い低分子鎖になります。
以下にイメージで示します。

樹脂の劣化のメカニズムの詳細は別記事にまとめております。
樹脂材料 劣化・分子量分布
劣化と分子量分布変化
樹脂材料の劣化と分子量分布のイメージは以下になります。
初期(バージン)材料が熱や紫外線で劣化することで、分子量分布は、低分子側に推移します。
劣化が進むほど低分子側(グラフ左側)へ徐々にスライドするイメージです。

分子量分布は劣化とともに、以下の変化もします。
- ピーク高さの低下
- 分子量分布の幅の広がり

ピーク高さの低下
劣化により、分子量高さのピークが下がる傾向になります。
これは劣化により、分子量分布の中央値が少なくなっていることを意味したおります。
劣化することで、分子用分布が中央値に収束することはありません。

分子量分布の広がり
樹脂材料の劣化において、材料全体がが均一に劣化が進むわけではないため、分子量分布差が大きくなることがわかっています。
劣化時間と共に分子量分布の広がりは大きくなっていくため、物性バランスは悪化していきます。

分子量と物性の関係
樹脂の分子量は、物性に大きな影響を及ぼします。
上記の通り、樹脂材料は劣化することで分子量が大きく変化するため、樹脂材料の分子量と物性の関係はしっかりと理解する必要があります。
以下が分子量と代表的な物性の関係になります。

分子量が大きくなると、引張り強度・引張り弾性率・衝撃強度が高くなります。
分子量が小さくなると、流動性が良くなります。
そのため、樹脂材料が劣化し、分子量が小さくなると、引張り強度・引張り弾性率・衝撃強度は低下し、流動性が良くなります。
分子量 測定方法
分子量を測定する方法はいくつかあります。
樹脂の種類により最適な分子量分析方法が異なるため、事前に測定設備の検討は必要です。
分子量分布の測定方法については、こちらの記事にわかりやすくまとめました。
最後に
今回は、 樹脂の分子量分布と強度・樹脂劣化の関係 について書いてみました。
樹脂の分子量を理解することは、樹脂の素性や劣化の程度を確認する上で重要になります。
次の記事では、その樹脂の分子量の測定方法についてまとめたいと思います。
別記事で、樹脂やゴム材料に関してわかりやすくまとめておりますので、皆さんのご参考になれば幸いです。
ゴムや樹脂材料でお困りなことがありましたら気軽にコメントいただければ、分かる範囲でご回答させていただきます。
■化学系最大級の本サイトでの広告等の御依頼がございましたらご連絡ください