今回は、3Dプリンタ樹脂材料の特徴と選び方 についてまとめました。
3Dプリンタ開発
私は、仕事と個人で3Dプリンタの製品開発を行なっています。
仕事
私は樹脂の専門家として、樹脂材料開発や、樹脂材料を用いた製品開発を行っています。
新しい材料の開発をおこなったり、製品開発のための金型から射出成形検討などをおこなってきました。
樹脂材料技術の変化は以下のように合ったと認識しています。
- 樹脂材料開発・部品成形
- 樹脂材料・部品の流動解析・剛性解析
- 3Dプリンタ技術開発
樹脂材料開発・部品成形
2010年ごろまでは、新しい樹脂材料を開発し、製造現場で射出成形条件をひたすら成形条件を変えて、製品の見栄えの良いものを作ることばかりをおこなってきました。
樹脂材料・部品の流動解析・剛性解析
2010〜2017年ごろは、製造現場で製品の見栄えの良いものを作るためにがむしゃらに成形トライをすることが減りました。
そして、できるだけ開発効率を良くするため、解析技術の向上に取り組むようになりました。
特に樹脂材料の世界では以下2つの解析技術が重要で、この時期は各社盛んに取り組みがなされました。
- 樹脂材料の流動解析
- 樹脂部品の剛性解析
3Dプリンタ技術開発
2018年以降ごろから3Dプリンターが注目を浴びるようになりました。
そこで樹脂材料を専門としている私達は、少量多品種の生産に対応できるよう3Dプリンタの開発に日々格闘しております。
個人開発
仕事で3Dプリンター開発を行う一方で、仕事で培った樹脂材料や3Dプリンター技術を、個人制作品に応用しています。
個人で3Dプリンターを購入し、身の回りでの困りごとを解決するものづくりをおこなっております。
一例ですが、スターバックスのビックマグカップ向けホルダーを開発・生産をしております。
友人・知人へのプレゼントで喜ばれたことをきっかけに、販売したところ大好評いただいています。
3Dプリンタ 課題
仕事と個人で樹脂材料を用いた3Dプリンタ開発を行なっている中で、以下2つの課題があることに気がつきました。
- 各樹脂の成形温度がわからない
- 最適な樹脂材料がわからない
成形温度
1つ目の課題は、樹脂材料によって異なる成形温度がぱっと見でわからないということです。
3Dプリンタ向けの樹脂材料にはさまざまな種類があります。
そして、開発する制作物の使われる環境に応じて、最適な材料を選ぶことが必要です。
しかし、樹脂の種類を切り替える際に、樹脂の成形温度(プリント温度・ベット温度)は何度にすべきか?
ということを度々忘れてします。
そしてその度にネットにて成形温度を調べ、温度条件を設定しています。
3Dプリンタで使用する各樹脂材料の成形温度がぱっと見でわかるような情報がありません。
最適な樹脂材料
樹脂材料はかなり多くの種類があります。
3Dプリンタで利用できる樹脂材料のみに絞っても8種類程度あります。
3Dプリンタの樹脂フィラメントの技術進化により、多くの樹脂材料が3Dプリンタに使えるようになりました。
そして、制作物の使われる環境に応じて最適な樹脂材料を選ぶ必要があります。
しかしながら、各樹脂材料がどのような材料特性があるか分からない課題があります。
3Dプリンタ用樹脂材料
2022年現在、3Dプリンタ用樹脂材料は、以下8種類販売されています。
- ABS樹脂
- PLA樹脂
- ASA樹脂
- PP樹脂
- PETG樹脂
- PMMA樹脂
- PC樹脂
- PA樹脂
(樹脂材料の世界では、〇〇樹脂 と書かないと 材料のことを指しているのかわからないと怒られます)
3Dプリンタ 課題解決
成形温度
3Dプリンタで用いる各樹脂材料の成形温度がぱっと見でわからない問題に対して、分かりやすいグラフを作りました。
各樹脂材料の成形温度一覧については別の記事でまとめております。
最適な樹脂材料
私が樹脂材料の開発や成形、3Dプリンタ開発に10年以上取組んできた経験から、各樹脂材料の特性を一覧表にまとめました。
各樹脂材料の特性は以下の通りです。
- ◎:かなり良い
- ○:良い
- △:普通
- × :悪い
表を見ていただくと分かりますが、全ての特性に優れた最強の材料は存在しません。
制作品に求められる材料物性や、制作品が使われる環境に合わせた材料の選定が求められます。
ABS樹脂
ABS樹脂は、アクリロ二トリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(C)で構成された樹脂です。
3Dプリンターで最も利用される樹脂材料の1つがABS樹脂です。
ABS樹脂は材料の物性バランスが良いため、家電製品や自動車の部品など幅広い用途で使われています。
ただし、耐候性が欠点であり、屋外で長時間利用すると、材料強度の低下や外観悪化が生じます。
屋内で使用する製品には最適な材料の1つです。
ABS樹脂材料の詳細については記事でまとめております。
PLA樹脂
PLA樹脂は、3Dプリンタ向けに使われる材料の中で唯一の植物由来のプラスチック素材です。
PLA樹脂は、Poly-Lactic Acidポリ乳酸の頭文字をとった略で、ポリ乳酸樹脂とも呼ばれます。
PLA樹脂は、上記3Dプリンタ向けに使われる材料の中で唯一の植物由来のプラスチック素材です。
トウモロコシやジャガイモなどに含まれるデンプンなどの植物由来のプラスチック素材になります。
材料の特性は、強度や衝撃性、耐熱性に劣るため、製品用途は限られるものの、成形性に優れます。
そのため、部品の試作用途として大変使いやすい材料です。
ASA樹脂
ASA樹脂とは、アクリロにトリル(A)、スチレン(C)、アクリレート(A)で構成された樹脂です。
ABS樹脂に含まれる耐候性に劣るブタジエン(B)を、耐候性に優れるアクリレートに置き換えることで、ASA樹脂はABSの欠点である耐候性を改良した材料です。
またASA樹脂は耐薬品性、耐熱性に優れるため、薬品や高温に触れる環境で使用される製品には最適な材料です。
ABS樹脂とASA樹脂の比較について、別記事に詳細をまとめております。
PP樹脂
PP(ポリプロピレン)樹脂は、汎用樹脂と呼ばれる材料の1つです。
PP樹脂は、日常でよく使われている家庭用品・雑貨・包装材料などから、家電製品や自動車部品など非常に幅広い用途で使われております。
PP樹脂の特徴は、物性バランスが優れる点で、材料物性に大きな欠点はありません。
ただし、PP樹脂は乳白色であるため、色のついたフィラメントでは発色性に劣ります。
PP樹脂材料に関連した内容について、別の記事にまとめております。
PETG樹脂
PETG(ポリエチレンテレフタレート)樹脂は、熱可塑性ポリエステルで、ペットボトルに使われている材料です。
ペットボトルを想像されるとわかる通り、透明性(発色性)・強度・耐衝撃性・耐熱性などに優れる材料です。
3Dプリンタで成形しやすい特徴もあり、今後広がっていくことが予想されます。
PMMA樹脂
PMMA(ポリメチルメタクリレート)樹脂は、透明性に優れるため、色の発色性が良い材料です。
一方で耐衝撃性に劣るため、材料の使用用途は限られます。
2022年現在、3Dプリンタ向けのPMMA樹脂材料は多くありませんが、他の樹脂材料と比較して最も発色性に優れるため、今後PMMA樹脂のフィラメント改良が進むことが期待されています。
PMMA樹脂の特徴については、別の記事でまとめております。
PC樹脂
PC(ポリカーボネート)樹脂は、機械物性に優れ、且つ発色性が良く、非常にバランスに優れた材料です。
一方で耐衝撃性に劣るため、材料の使用用途は限られます。
PMMA樹脂と同様に、2022年現在3Dプリンタ向けのPC樹脂材料は多くありません。
PC樹脂の詳細については、別の記事でまとめております。
PA樹脂
PA(ポリアミド)樹脂は、ナイロン樹脂とも呼ばれ、耐熱性と耐薬品性に優れる材料です。
ほとんどの樹脂材料は、熱に弱いのですが、PA樹脂は耐熱性に優れた貴重な材料です。
そのため、熱が発生する部品への適用ができます。
ただしPMMA樹脂やPC樹脂と同様に、3Dプリンタ向けのフィラメントとしてPA樹脂は多くないため、今後材料の改良が期待されています。
耐薬品性については、別の記事でまとめております。
最後に
今回は、3Dプリンタ樹脂材料の特徴と選び方 について書いてみました。
3Dプリンタ向けの樹脂種は、技術改良が進み年々ラインナップが増えてきました。
今後さらに技術進化が進み、現在は使えていない樹脂材料が3Dプリンタ向けに使えるようになっていく未来が予想されます。
今回の樹脂材料の特性まとめが皆さんの製品開発にお役に立てていれば幸いです。
別の記事で、3Dプリンタの各種樹脂材料の成形温度についてまとめております。
3Dプリンタや樹脂・ゴム材料に関して、ご質問がございましたご連絡をください、
皆さんも私と同じような課題をお持ちかと思い、共有いたしました。
3Dプリンタや樹脂・ゴム材料に関して、ご質問がございましたご連絡をください、
可能な限りご回答させていただきます。